松久外吉のチラ裏

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Jony Ive退職について思うこと

ジョニー・アイブ氏、Appleを退社し、デザイン企業「LoveFrom」立ち上げ Appleは顧客に(ITmedia)

 Jony IveのAppleからの年内退職が発表されました。Jobsのデザイン哲学を最も強く受け継いでいるであろう氏がAppleから去ることで、今後の製品にどんな影響があるのか正直不安です。Appleの未来に大きく不確定要素が増えました。過剰なまでにシンプルを追求して、iPhoneiPadからはファイルの概念などを隠蔽するなど徹底していたのに、最近になって、USBメモリも扱えるiPadOSを発表して使い勝手をパソコンに大幅に寄せてきたタイミングと合ってしまったのは偶然なのでしょうか。まあ、個人的にはiPadOSのUSBメモリやファイルを扱いやすくなるの機能はありがたいのですが(苦笑)。とにかくショックだったので、ダラダラと今回の件の感想を垂れ流してみる。

 いろんな報道を見ていると、アイヴ氏が行き詰まりを感じているように思えます。少なくとも、現状のままでは、Appleもアイヴ氏自身も(おそらくはジョブズ氏が健在だった頃の)最高の輝きを放つことはできないと判断したのではないかと想像しています。

 最初の報道では、重役がオペレーション系が大勢を占めるようになり、会社がデザイン、エンジニアリングからオペレーション寄りになったことが不満という論調でした。

ジョニー・アイヴのアップル退社はCEOが製品開発に無関心だから?クック本人は反論(WSJ報道)(Engadget Japanese)

アイヴ氏は、アップルの取締役会がテクノロジーやその他の本業の中核部分ではなく、財務や事務管理しか実績のない重役によって牛耳られることに失望した--WSJは氏の退職の理由をそういう風に示唆しています。

次の記事は、そういった報道に対して、内実はそんな悲劇的な話ではないと反論しています。

ジョニー・アイブのいないアップル、デザインのこれから(TechCrunch)

この数日間、細かい話がいくつも飛び交っているが、私が知る限りでは、それらは不正確であるか、正確な脈絡の中で語られてはいない。しかし重要なのは、私の知人の中には、ジョニーが会社を去ってチームを見捨てると思っている人は一人もいないということだ。

比較的ポジティブな論調で、1つ1つの話には納得できますが、しかし、同時に次のようにも述べています。

アップルのこの10年間は、経営上の難題が爆発的に増えさえしなければ平穏だった。生産量を大幅に増加させ、製造ラインを分割してきたことが、価格設定と機能、そしてとてつもなくもっと大勢の人たちに守られた余地を減らす努力につながった。
(中略)
「アップルへの批判の多くは、懐古趣味的なものです」とCreative StrategiesのBen Bajarin(ベン・バジャリン)氏は言う。「一部のデザイナーが、今より大胆で、偶像的で、ひょっとしたら偏向していた時代にアップルに戻ってほしいと願っているのです。しかしあの当時のAppleは、製品の販売台数は数千万台規模でした。数億台規模ではありません。そこが、一般の多くの人たちが見落としている、決定的に重要なポイントなのです」。
(中略)
企業が成長すれば、ジョニーのような人材は、製図台でペンを走らせる仕事から、より経営側に近い仕事に移されるのが自然の流れだ。アップルの場合は教育だ。

大筋ではやはり、アイヴ氏はジョブズ時代のようにはデザインの仕事ができなくなったということではないでしょうか。

将来の製品を創ることよりも、企業として現在の利益を最大化するために製品ラインナップを複雑化(そういう意味ではやはりオペレーション寄り)し、そのため管理業務が増えてしまったように報道からは推測できます。

イノベーションのジレンマ(Wikipedia)

大企業にとって、新興の事業や技術は、小さく魅力なく映るだけでなく、カニバリズムによって既存の事業を破壊する可能性がある。また、既存の商品が優れた特色を持つがゆえに、その特色を改良することのみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かない。そのため、大企業は、新興市場への参入が遅れる傾向にある。その結果、既存の商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業に、大きく後れを取ってしまうのである。

ここにあるような自社製品とカニバらないためのイノベーションのジレンマではなく、現在製品の管理と改良のための多忙化によるイノベーションのジレンマなのかも。いずれにしても、現在を大切にしすぎて、未来への広い意味での投資がやりにくくなっているのではないでしょうか。

自分が行く先はパックが来るポイントであり、パックがあった場所ではない(ジョブス名言集さん)

ジョブスはそれを、こういう言葉で語っている。

「私が好んでやまないウェイン・グレツスキーの言葉をご紹介します。『私が滑りこんでいく先はパックが向っているポイントであり、パックがあったところではない』。アップルも同じことを常に試みてきました。誕生のごくごく初期の頃からそうでした。そしてこれからもそれに変わりはありません」

もちろん、残された人たちも非常に優れた人材であり、これからもAppleは十分素晴らしい製品を世に送り出していくだろうけど、世界を変えるようなすごい製品は期待できない状況になったのかもしれない。アイヴ氏自身もそう判断したのかもしれない。

だからこそ、変化を起こすべきなのかも。

ジョニー・アイブのいないアップル、デザインのこれから(TechCrunch)

クパチーノのアップル旧本社ビルであったInfinite Loop 4の壁に、でかでかと掲げられていたスティーブの言葉がある。「何かを行って、それがとてもいい結果を生んだなら、他に素晴らしいことをすべきだ。長い間そこに居座ってはいけない。次は何かを考えるのだ」。

そして、今こそ変化するべきタイミングだと思ったのではないでしょうか。

ジョナサン・アイブ氏がアップルを去り新会社立ち上げ(TechCrunch)

アイブ氏はそれに対して次のような感想を述べている「この先、私は(Appleの)従業員ではありませんが、それでも強く関与し続けることになるでしょう。それが何年も続くことを私は望んでいます。今が、この変化を起こすための自然で穏やかなタイミングだったように思えます」。

ある意味、自由になったアイヴ氏のアイディアを妥協することなくAppleがそのリソースを持って実現できれば、また、すごい製品を生み出せるかもしれない(LoveFromが他の会社と組む可能性もあるけど)。

本当にお疲れ様でした。そして、本当にありがとう。


以下、興味深かった記事リスト。

 このタイミングで退職を発表したのは、Jobsとの最後の仕事、Apple Parkが完済したからという噂。

「アップルの美学」そのものであるジョナサン・アイヴと、精神的な同志だったジョブズが共創したもの(WIRED)

新しい本社「アップルパーク」が完成したことで、文字通りジョブズとの最後の仕事は終わった。アイヴにとって、ジョブズとのつながりはアップルで働くことの根幹をなしていた。ジョブズの死後のアップルに残ったことで、生涯の伴侶を失ったあとも思い出の家に住み続けるような気持ちになったはずだ。

つまり、アップルを去ることは(またアイヴの好きな単語を使わせてもらうが)必然なのだろう。

相当疲れてるらしいという話。

ジョナサン・アイブ氏のApple退社は予測済みだった?週2日しか出勤しないときも(iPhone Mania)

その当時、アイブ氏は米雑誌New Yorkerに「ひどく、ひどく疲れた」と語っており、Apple Watchを製品として発表するまでのプロセスが、Appleに入社してから最も難しいものであったことを明らかにしています。
(中略)
「彼(アイブ氏)は、Appleに25年以上も務めている。ひどく骨の折れる仕事だ。Appleでの25年間は彼にとって非常に緊迫したものだった。速度を落とすのも無理ない」と匿名の情報提供者はコメントしています。

 かなり前の記事だけど、アイヴ氏は以前からイギリスに帰りたがってるという話は出ていたので、本人にとってはいいことなのでしょう。

母国に戻りたいジョナサン・アイブ?(故 藤シローさんの「maclalala2」)

AppleではApple Universityなる教育制度があるようです。ジョブズ氏やアイヴ氏がいなくても、彼らの哲学が受け継がれるとこを祈ってます。

Appleの極秘社内教育プログラムではピカソの絵やGoogle製品を使用(GIGAZINE)

Apple Universityは2008年、当時CEOの座に就いていたスティーブ・ジョブズ氏が設立。
(中略)
参加者は1年間のコースを通して、Appleが全ての製品でコンセプトにしている芸術性・シンプル性・機能美などを徹底的に教え込まれるとのこと。

「Apple University」の内容の一部が明らかに!Apple従業員が内容をリーク!(iPhone Mania)

授業は?入学は?アップル大学の全貌がついに明らかにされる(iPhone Mania)

逆に、アイヴ氏、実は大したことねーんじゃね?って記事💦。

Appleのチーフ・デザイン・オフィサー、ジョナサン・アイブ氏退社についての個人的な考察(Apple/Macテクノロジー研究所 さん)

私は大方の人々の評価とは裏腹にアイブのデザイン力に関しても闇雲には認めていない。何故なら古くは20世紀モデルの電源コードのあり方、初代iMacの円形マウスはもとより、現在でもiPhoneのカメラの出っ張りやマウスの充電ポートが裏側にある点などなどデザイン面だけでなく使い勝手を犠牲にしてきた面も目立つからだ。またアイブはソフトウェアのUIに関しても責任を負ったが決して成功したとは思えない。
(中略)
要はアイブのデザイン力を認めるか認めないかを含め、スペックは勿論デザインを最終決断したのはCEOのジョブズであっただけでなく、いわばAppleにおけるジョニー・アイブや現CEOのティム・クックを "生み出した" のはまぎれもないスティーブ・ジョブズなのだ。したがって個人の能力や貢献はきちんと評価するにしてもいたずらに「Apple復活を支えたジョナサン・アイブ」等という物言いはどうかと思う。そうした点からも個人的にはAppleにおけるアイブの評価は過大評価されていると考えている。
(中略)
さて、ジョニー・アイブが去ったAppleを心配する向きもあるが、プロダクトデザイン/インダストリアルデザインはアイブだけのものではない。世界には優秀なデザイナーは多々存在するし、そうした人たちに光が当たる良い機会になればよい。

Appleはジョニー・アイブの重要な「フィドルファクタ」を失うのかもしれない(小龍茶館)

“ジョニー・アイブは「触覚」の要素をコンピュータデザインに持ち込み、親近感を増した”

Appleはアイヴ氏無しでも大丈夫、という記事。 Daring Fireball:ジョニー・アイブ退職後のAppleの体制に変化、SVPが一人追加に(小龍茶館)

その他、いろいろ。

辞めるのが大ニュースにもなります。Appleのデザイナー ジョニー・アイブの偉大さを噛みしめる記事16選(GIZMODO)